もう一度、はじめから
 「お疲れ」
 閉店時間になり、あたしも演奏を終え、ピアノのふたを閉めていると後ろから声がした。
「お疲れ様です」
 小田浩平、その男の声にあたしは振り返らずに応えた。
「弾いてる時はスッゴく楽しそうなのにね〜」
 男の割にトーンの高いその声が、疲れ切ったあたしの耳には、まるで目覚まし時計のようにキツい。
「失礼します」
 あたしは少しの会話もせずにその場を立ち去った。

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