蒼翼記
その夜。

星の散らばる空を見上げ、リンが呟く。


「月が、ない」


そう、
無限に瞬く星空の何処を探してもその姿が見えない。
今夜は新月だった。


と、
今までになくやけにナキ達が静かなのに気が付きリンが振り返ると、ナキが口を開いた。


「月の消える夜はアイツが来る!」
「「やって来る!!」」

「アイツ…?」
「コウモリさ」


「コウモリ?」と聞き返そうとした直後、急激に周囲の明度、気温が下がった。

「!?」

「…来たか…」


クロスメイアスの呟きを背に、リンは音なく迫り来る気配に身構える。


サアァァァ…

辺りの木の葉が舞い上がる。
それらが重力に従ってはらはらと落ち始めた時、相手は現れた。






風に舞う闇色の外套、一つに括られた長い灰色の髪。


しかし軒並み強い印象を受けるのが、その瞳。

血のように紅く、見た者が思わず動きを止める魅了眼(チャーム)。



「貴様か、"異端の羽付き"リン・リカルド」
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