蒼翼記
「く…っ…」

リンの身体が、地面から離れていく。
その苦痛に歪んだ顔を眺めながら、彼は冷徹そうに笑っていた。

「…主から離れよ」

後方にいたクロスメイアスが殺気を滲ませる低い声を響かせた。
アキがそれに続き、こめかみに青筋の立った状態で、その大きな眼を細める。

「リンから離れなよ」

その様子を横目で一瞥し、気にした風もなく苦しむリンに目を戻す。

「…うっ…あが…」

吊るしあげられたリンが苦しげに彼を見る。



瞬間、彼はリンから手を離し大きく距離をとった。
リンは地面に崩れ落ちる。

「うっ…かはっ!げほっげほっ」

今の二人の間には10メートル程の距離が開いている。

地に四肢をついてむせるリンの姿を見ながら、男はその内心で冷や汗を伝わせる。

無我夢中に苦しむ中で見せた金色の瞳。
長細く変化しかけた瞳孔。


『羽付き』の『憑かれている』状態。



今のリンの様子を見るに、意識がなくなる前に呼吸が間に合ったらしい。

暴走の兆しは見られなかった。
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