蒼翼記
木の葉が舞い落ちる音が止んだその場には既に男の姿は無く、以前の静寂が再びその空間に戻っていた。

｢リン…？｣

茫然と立ち尽くすリンにナキがようやく声を上げる。
我に返ったリンが振り返る。
無表情と言うにはあまりに曖昧で、瞳だけが遠くを見ている。

その表情の意味がわかる者は、その場にはいなかった。

再び沈黙が落ちる前に、アキが口を開く。

｢知り合いだったのかい？｣

リンはあっさりと首を振り、いつもの調子に戻って答える。

｢いや、同族だ｣

その言葉にクロスメイアスが気が付いたように口を開く。

｢それではコウモリは…｣
｢うん。種類は違うけど、彼は異人類種だ｣

形容しがたい沈黙に、リンは一人月のない星空を見上げ、呟く。







｢どうして此処に…｣



質問の真意を知る者はなく、答えの出ない問いは肌寒い森の空気に霧散していった。
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