蒼翼記
「リン・リカルド?俺は奴の粛正にあいはしたが仲良く話をする機会なんてなかったぜ?」





事実上はそうなのだ。

リンがいなくなったあの夜、俺がリンと交わしたやり取りは俺達の、あの階で偶然一部始終を知る事となった羽付き達の中での最機密事項になっている。


俺達が口を割らない限り、リンが城を出る事になった経緯はわからない。


しかしその若い憲兵はなおも口を開いた。




「リン・リカルド殿の失踪を城がどう扱っているかはすでに既知の事とお察しします」
「………あぁ」



"異人類種ナンバー00
『羽付き』リン・リカルド
精神異常の発作により城からの逃亡及び忌嫌の森への失踪"





まるでリンが一人勝手に狂ったかのような口ぶり。
まるで羽付きはいつ狂って暴れ出すかわからないとでも言いたげな言い回し。


きっとリンは何か酷いものを見てしまったに違いないのに。
城が何か隠しているに違いないのに…





自然と平静を装う手中に力が入り、手の下にあった床の石がビシリと微かな悲鳴をあげた。




「私には、それがどうにも腑に落ちないのであります」
「…………は?」
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