蒼翼記
顔を上げると、神経質に周りに気を配りながら話す青年の様子が見て取れた。




「私は何度かリカルド殿への伝令役を勤めました。
一つ一つを取り上げればたいした内容もない事ですが、私が見ていた限りではそんなに精神の不安定な方には見受けられなかったのであります」

早口で、小さな声だったが確かに彼はそう言った。


「そーれじゃあ〜君にビップはどーぅ映ったの〜?」


いきなり反対側から話を振られビクリとそちらを向いたが慌ててまたガシャリと身を正す。

視線は思案げに宙を泳いでいたが小さな言葉の一つ一つははっきりと確信の色が見えた。



「純粋な方に見えました。
人を殺す事にははっきりと嫌悪の色で断り、こちらの至らぬ態度は微笑んで許して下さる鷹揚さもありました。
だけどその姿勢はいつもしっかりと芯が通っていて、……えぇと……」




うまく言葉に出来なくなったのか憲兵は口ごもった。
しかし、これだけ聞けば充分だ。
自分が認識したリン・リカルドの像とちゃんと一致する。



「お前、名前なんてったっけ?」
「はっ!ガイカス・トリアノスであります」

「長いな。お前のあだ名はトリだ」


それを聞いた若い憲兵は、不思議そうに顔だけこちらに向けた。
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