蒼翼記
『聖王』となりて幾星霜。


森に人間の臭気が目立つようになってきた。が、姿や声を聞かない。


私は厚く茂る木々に作られた薄暗闇の下、深淵なる泉の中心、『王聖地』たる場所の玉座の上で、首を傾げた。




ここ千年近く、森の中でこのように人の臭気だけがあるなどと言う気配はなかった。



(いかにいかに…)





「クロスメイアス」

「此処に」


私は泉のほとりに額付く若い黒豹をみやる。




「調べてくれるね?」



私の命を請けて我が弟子は静かに日のさす森の中へと姿を消した。







長閑(ノドカ)な日である。
鳥のさえずりが、美しい。



この森は先代から変わらない。
私が『聖王』となっても、変わらず美しく、平穏だ。







変わった事と言えば、人語を話す者が出てきた事くらいか。
< 144 / 209 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop