蒼翼記

崩壊の始まり

｢焦がさないように底からかき混ぜるのよ｣

｢こう？｣










｢…微ー笑ましーぃねェ｣





陽光が差し込む室内。

野苺のジャムを作る部屋の中には、雨上がりの土の香りと、甘いジャムの匂いが漂っている。


｢アの字｣

別の窓から覗く大きな黒豹がまどろんだ目で二人を眺める赤毛の猿に話し掛ける。
彼は部屋に入る事を望まなかった為、雨ざらしになった黒毛を日の下にさらして地べたに寝そべっていた。


｢なんだい石帝｣


アの字と呼ばれた金のトサカを持つ猿は暇そうに腿をかじりながら適当な返事をする。


｢気が抜けているな｣


石帝クロスメイアスの調子は崩れる事なく厳格だ。
しかし、その声色は若干穏やかである。


｢気ぃも抜けるっさぁ〜｣




伸びをしながら欠伸混じりに答える。
だれていることこの上ない。



｢ここは平和過ぎてどーもいけないねぇー…｣


日々気を抜く事を許されなかった状況つ育った彼らにとって経験のない事なのだろう。


他の猿達は部屋の片隅でうずくまって眠りこけていた。
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