蒼翼記
距離は、歩幅10歩くらいか。
芯の強そうな男子にしては若干長めの黒髪。
肘の辺りから生える髪と同色の羽。
やや俯き気味でもわかる精悍な顔立ちは見間違う事がなかった。
「チェオ…?」
恐る恐る声をかける。
聞くべき事も、話すべき事も、沢山あった。
どうして、
こんな所にいるのか。
なにを、
しているのか。
何故、
そんなにも生気がないのか。
嫌な予感が、それ以上の彼への接近を許さない。
まるで、統制剤を打たれているかのような…
ドクン、
チェオが、ゆっくりと顔を上げる。
表情の欠落したその顔の中で、口元だけが、何かに抗うように動くのを、リンは見た。
"逃 ゲ ロ"