蒼翼記
「なんだ、この音は…」
曇り始めた空の下、王聖地の中心でグラジオラスが不快そうに呟く。
「心拍の拍動のようにきこえますが…」
木の葉の闇に潜むメイスフォールも訝しげに答える。
そんなもの本来ならば聞こえるはずがないのだ。
嫌な予感がする。
バイアスは何も言わずただグラジオラスの近くに佇んでいた。
ふとグラジオラスの方を振り返り、苦笑する。
「なんだ?その不安そうな顔は。
森を統べる者の顔じゃないぞ?」
「しかし…」
「お前だけは何があっても俺が守る。心配するな」
そう言ってバイアスは再び気配の近付く方を見据える。
気配の主は進行方向の木々を薙ぎ倒しながらゆっくりとこちらへ向かっているらしく、ズンッズンッと木々の倒れる重苦しい音がバイアスの耳にも届いていた。
やがて、その姿が倒された木の陰から現れた。
その場にいた誰しもが、自分の目を疑った。
グラジオラスの口から、完全に王としての威厳の瓦解した声が零れる。
「…ライア………どうして……」
グラジオラスはゆらりと立ち上がる。