蒼翼記
それから
サァ…ッ
「……」
髪を撫でる風に目を開ける。
最初に目に入ったのは、何よりも大切な、愛しい少女。
眠っているらしく、僕の腕の中で規則正しい呼吸を穏やかに続けている。
背中は、一筋だけ、背骨に沿うように付いた大きな傷痕だけを残して元に戻っていた。
そこで初めて辺りを見回すと、
視界の限り、岩だけになっていた。
聖地の水は枯れ、木は砕かれ、草花は死んでいた。
6つの死体は、みつからなかった。
身体の大きい黒豹は、骨だけになっていた。
哀しみも、後悔も、喜びも沸かなかった。
何かが麻痺したかのように、僕の心は何も感じていなかった。
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