蒼翼記
その日も僕は仕事に向かい、あっさりとその仕事をこなした。





牢に戻る前に地下の井戸で、血を洗い流す。




ここまでは物心ついた頃より前からなんの変わりもなく続けてきた事だった。



突然訪れた変化は、地下の廊下に小さく響く『歌声』だった。






井戸のある洞窟のような地下広場を中心に四方八方に伸びていく廊下の中の一つ。
他と同じように暗闇を抱える廊下から、細く微かに声は響いていた。




「…?」




よっぽど特別な事でもない限りいつも決まったルート―牢獄の中で一日の大半を過ごし、城の別棟にある死刑場で『仕事』を済ませ、地下廊下を通りこの井戸で体を洗い流してから牢へ戻る―しか通らないからいつものルートから外れたら何処に行き着くのかわからない。




だけど僕は突然やってきた『非日常』の兆しを辿り、暗闇へと足を進めた。






廊下には、分かれ道も部屋もなく、ただ真っ直ぐに続いている。

常人ならまず見えない暗さだが、『羽付き』ならまず問題ない。


歩いて行くうちに『声』は段々聞き取り易くなり、反響していた歌詞もはっきりしてきた。


それは『歌』よりは『唄』のような素朴な歌詞と、懐かしいようなどこか切ないようなメロディーだった。


その声の主は廊下の突き当たり、真っ暗な牢の中に居た。
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