蒼翼記

籠の中の鳥

『あの日』から、もう何ヶ月たっただろう。






『あの日』以来、彼女の名前を受け継いだ僕は死刑執行からは遠ざかり、専ら国民や暴走した異人類種の粛正に従事するようになった。





彼女を僕自らの手で殺した事で他の囚人も等身大の人間だという事に気付いてしまった。

もう、前のようには戻れなかった。





「リカルド様!演習中の異人類種が暴走をっ!直ちに鎮静に向かって下さい!!」

「…了解。」






就任するだけで位を与えられるこの仕事は、番号で呼ばれる異人類種にさえ名前をつけてもらえる唯一の機会でもあった。



迷わず僕は『リン・リカルド』の名を希望した。


彼女を失ってから望んで思い出のある所から離れても、これだけは手離したくなかった。

…手離せなかった。
< 52 / 209 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop