蒼翼記
「…リン・リカルド?」
異人類種が収容される塔―僕はその力の強さ故に別に扱われている―に入った時、不意にそんな声が聞こえた。
声のした方を見ると牢の壁に背を付けて座る昼間の羽付きと目が合った。
「…昼間はどうも」
少し刺のある口調ながら鉄格子のすぐ傍までやって来る。
近くで改めて見ると精悍な顔付きの青年で僕と同じ歳程に見えた。
「どういたしまして」
「意外だったよ。
あんたの『粛正』にあって五体満足だったなんてな」
多分、嫌味のつもりだろう。
「昔はね。いろいろと面倒だったから加減しなかったんだ。
でも…もう殺しはうんざりだ。本当に」
僕は、半ば吐き捨てるようにそう言った。
「…」
「…なんだよ。」
急に黙った彼を怪訝に思って聞くと焦ったようにくしゃりと笑った。
「いや、悪い。
なんか意外だったからさ。
俺はナンバー04。
この搭のやつらにはチェオって呼ばれてる」
"奴ら"と言うのは多分収容されてる異人類種の事だろう。
ナンバーが早いって事はそれなりに強いんだな。
差し出された手の意味が分からずに首を傾げると気を悪くした風もなく『握手だよ。握手』と笑った。
「なぁ、今度の戦争の事、聞いてるか?」