【短編】君を想う
動揺する男
家に帰って来てからも千鶴の様子は変わらなかった。
カフェオレを差し出してみても、DVDの再生を始めてみても、千鶴はずっと上の空だった。
──俺がメールを打ってることにも気づいてない。
智明が女といる光景を見たのは、これが初めてだったんだろう。
でも、ファミレスでの話しを思い出すと、そんな話を誰かから聞いていたのかもしれない。
「上の空」
カップを抱えたまま、微動だにしない千鶴の手からそれを取り上げた。
ようやく我に返る千鶴。
「さっきの、智明の彼女?」
聞いてみると、友達からそんな噂を聞いたと言う。
多分、最近聞いたばかりなんだろうな。
それで今日、実際に現場を目撃したわけだ。
千鶴と同じようにラグに直接座って、ソファに寄りかかった。
「修ちゃん……」
千鶴が小さく呟く。
「聞いてくれる?」
気持ちを吐き出そうとしているのか。
俺の役目はいつも、千鶴の声を聞いてあげること。