【短編】君を想う
小さく息を呑む音がしたと思ったら、さっきよりも肩の震えが大きくなった。

「……ごめっ」

抑えきれなくなったのか、泣きだした千鶴。



智明はまだ部屋に入ってくる様子はない。



「ちづ」

名前を呼んで、撫でていた手で顔を上げさせた。


やっぱり。

顔を上げた千鶴の目は、涙で濡れていた。


……やばいな。


自分で顔を上げさせておいて、涙目で見つめられると……結構やばい。


「修……ちゃ……」


掠れた声も俺の心臓を刺激する。


かわいいなぁ、千鶴。


両手で濡れた頬を包む。



……このままキスしたらどんな反応するだろう。



一瞬そんな思いが頭をよぎったけど、そこはなんとか抑える。

両手で頬を包んで、涙の筋を拭ってやった。

左に右に、と顔を覗き込むように拭っていたら、千鶴が急に俺の胸に頭を預けた。


「?」

どうしたんだろう?

そう思って千鶴を見ると……耳が赤い。

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