【短編】君を想う
俺と千鶴は毎朝、椎名家で朝食を摂ることになっている。
……と言っても俺、最初は千鶴だけだと思ってたんだけど。
千鶴の父親が転勤になり、母親も一緒に、ということになった。
もちろん年頃の娘を一人で残すつもりもなく、千鶴も一緒にとなるはずが、千鶴は猛反発した。
そこで椎名家……というか、美佳さんが保護者役を買って出た。
形だけの保護者にならないように、1日1回は椎名家に顔を見せることを条件として千鶴はここに残ることを許された。
まぁ、言葉は悪いが千鶴の父親・亘さんにしてみたら、娘に”悪い虫”がつかないように、外泊なんてさせないように監視をつけたってところだろう、と俺はひそかに思っていたりする。
……そういえば昔、智明と「どっちが千鶴をお嫁さんにするか」なんて話で本気の喧嘩をした時、「どっちにもやらない!」と怒鳴られたことを、ふと思い出した。
ちなみに、“おじさん”や“おばさん”と呼ぶと該当者がいっぱい出てしまうからと、小さい頃から名前で呼ぶようになっていた。
「……昨日の映画、最後まで観られなかった……」
美佳さんから味噌汁を受け取った千鶴が隣で小さくつぶやいた。
昨日、智明の部屋で3人で観ていた映画のことだ。