【短編】君を想う
でも、一度口にしてしまったら、もう止めることが出来なくなっていた。

隣に座り、手を重ねて、その手を自分に引き寄せた。



「まっ……待って……!」



腕の中にいる千鶴がもぞもぞと動く。

柔らかな感触がなくなってしまわないように、回した腕に力を込めた。



「もう待たない」



やばいな……。

離したくない。


肩に埋めていた顔をふと上げると、地上が近づいていた。


このままじゃ、まずいよな。

でもやっぱり離れがたくて。


耳や首筋にわざと音を立ててキスをした。



「お帰りなさーい!」



テンションの高い声と共にゴンドラのドアが開けられた。


「残念」

本気と嘘、半々の気持ちを込めて、最後に頬にキスを落とす。


手を繋いでゴンドラを降りると、千鶴は赤い顔をして、もう片方の手で頬を押さえていた。




少しだけ溢れてしまった俺の思い。

でも、どうにかしようと思ってるわけじゃないんだ。


千鶴が笑っててくれることが一番の願い。




それは、俺の手じゃなくても構わないんだ──……。



< 25 / 56 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop