【短編】君を想う
「千鶴」
とりあえず駅前まで戻って来て、千鶴に声を掛けた。
すると、今まで黙ってた千鶴が急にしゃべり出した。
──今にも泣きそうな顔をして。
それがわかったから俺はあえて泣かすことにした。
こういう時は我慢して自分の中に溜め込むよりも、吐き出した方がいい。
そのために俺がいるんだから。
「ちづ」
そう呼ぶと、千鶴は途端に眉を下げた。
「……っごめん」
泣き出した千鶴を自分の胸に引き寄せる。
千鶴は俺の胸におでこを預け、シャツの端をつかんだ。
頭を撫で、それからそっと背中に手を回した。
……だけど道の往来で、いつまでもこんなことしてちゃまずいよな……。
そう思って名前を呼んで、顔を上げさせた。
涙に濡れた目で見上げる千鶴。
やっぱりやばいなぁ、この顔。
「キスしていい?」
また、半分半分の気持ちから出た言葉だった。
一旦堰を切って溢れ出した気持ちは、冗談めいて言うことでしか誤魔化せない。
そう言ったら、千鶴の涙はピタっと止まった。
「泣き止まないならしちゃおうと思ったのに」
おかしくて、笑いながら目尻に残った涙を拭いてやった。
それから、頭をぽんぽんっと撫でて言った。
「帰ろうか」