【短編】君を想う
千鶴を送り届けて、自分の家のソファに座っていたけど。
俺はもう一度家を出た。
特にアテもなくふらふら歩いていたら、一軒の店に遭遇した。
レストランなのかバーなのか、どっちとも取れる雰囲気。
バーだったらさすがにまずいな、と思いながらも雰囲気に惹かれて入ってみることにした。
「いらっしゃい」
ドアを開けると薄暗い店内。
……やっぱりバーだったか。
だけど「いらっしゃい」と言われてしまった手前、引き返すこともできなくて、俺はそのまま入口に一番近いカウンターに腰を下ろした。
カウンターに置かれた小さなメニュー表にコーヒーがあったから、とりあえずそれを注文する。
目の前で淹れてくれるから、コーヒーのいい香りが漂ってきた。
「お待たせしました」
そっと差し出されたコーヒーに手をつけると、それはとてもうまかった。
「あの……」
コーヒーを淹れてくれた男性にどういう類の店なのか聞いてみようと、思い切って声を掛けた時だった。