【短編】君を想う
……といっても千鶴は途中で寝てしまったんだけど。


千鶴が観たがってた映画がレンタル開始になったらしく、レンタルビデオ店でバイトをしている智明がいち早く借りてきた物だった。



「起こしてくれれば良かったじゃん!」

そう言って小さく睨まれた。

そんなこと言われてもなぁ……。



途中で寝てしまった千鶴を家まで抱えて帰ったのは智明だった。


千鶴が一人でこっちに残るってなった時、念のため、ということで椎名家で合鍵を預かっている。

もちろんそれも知っていた俺は、智明に千鶴を任せて1人先に帰ったのだ。



──千鶴も智明に運んでもらったほうが嬉しいだろうし。


……千鶴はそのことに気づいてるんだろうか。



「起こしたのに起きなかったの、おまえだろ」


いつの間にか、智明が入って来たみたいだ。

智明が言うことが正しい。

俺たちがどんなに起こしても、起きなかったのは千鶴の方だ。



「おはよう、智明」


千鶴と同じ学校の制服を着た智明が、俺の向かいに座った。


そう、2人は同じ高校で、俺だけ県外の高校に進学した。

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