【短編】君を想う
彼女はペースも考えず、浴びるように飲んでいる。

普段からこんな飲み方をするようにはとても見えない。

むしろ、本来はあまり飲めないタイプなんじゃ……。


……酔いたいのか?


俺はそんな彼女を見ながらちびちび飲んでいた。



──気がつけば、かなりの数の空き缶が転がっている。


そのほとんどを飲んだ彼女。


コップを持ちながらうとうとするから、こぼすんじゃないかとこっちがヒヤヒヤしてしまう。



「もうやめといた方がいいんじゃないですか?」

そう言ってコップを取り上げようとした時、

「やめてっ」

と、その手を振り払われた。



コップが転がってラグにシミを作る。



「触らないでっ」


そう言ったかと思ったら、今度は払ったはずの俺を手を握った。


「ごめん、行かないで……」

そう言った彼女は、今にも泣き出しそうな目をしていた。



「桜井さん……?」

「なんで? いつもみたいに、春奈って呼んでよ……」



……この人は、俺を通して誰を見てるんだ?

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