【短編】君を想う
「……春奈、どうした?」

俺は名前で呼んで、手を握り返した。


すると彼女は、安心したような表情で俺に体を預けた。

まるで、猫が擦り寄ってくるように。


「春奈……」

名前を呼んで、頭を撫でた。


「好きよ……」

彼女はそれだけ言うと、俺に体を預けたまま、小さく寝息を立て始めた。




「……桜井さん?」

体を屈めて顔を覗き込むと──頬に涙の筋が出来ていた。




何があったんだろう。

単純にフラれたばかりなのか。


それとも、離れたくないのに離れなきゃいけない事情があるのか。



どうしたものかと思ったけど、とりあえずベッドに寝かせることにした。


すぐ隣のドアを開けると、予想通りそこは寝室だった。


シワになるだろうなと思ったけどさすがに服を脱がすわけにもいかず、そのままベッドに寝かせた。



寝室を出ようとした時、ふと、ベッド脇にあるチェストが目に入った。


上には伏せられた写真立て。


……涙の理由があるような気がして、見てはいけないと思いながらも表に返すとそこには──……。


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