【短編】君を想う
大粒の雨が窓を打ち鳴らし、彼女の声をかき消してしまう。

「え?」


彼女の声が聞き取れるように、少しだけ近くに寄った。


「この前は……すみませんでしたっ」

「……あぁ」


ここで飲んだ日のことか。

っていうか、それしか思いつかないし。


「ビールの空き缶はいっぱいあるし、ラグにはシミが出来てるし、服のまま寝てるくせに目の上にタオル乗ってるし……」

彼女は相当テンパっていたのか、一気にしゃべった。


病人にこんなにしゃべらせて、いいんだろうか?


「あ、シミ、取れてなかったですか?」

そう思いながらも、俺はヘンな返しをしていた。


「えっ!?」

「ちゃんと拭いたつもりだったんですけど……」

「……ホント、ご迷惑おかけしました……」


やっぱり、こっちの彼女が本来の彼女なんだろう。


小さくなっている彼女を見ていたら、かわいそうだけどおかしくなった。


「あの、寝たほうがいいんじゃ……。俺、もう帰りますから」

「ホント、すみません……」

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