【短編】君を想う
カップを片づけて、彼女の家を出ようとした時、体に響くくらいの大きな音がした。


「きゃっ!」

瞬間、彼女が抱きついてきた。


「桜井……さん?」

廊下の壁に押し付けられるような格好になった俺。


「ごっ、ごめんなさいっ!」

慌てて離れた彼女だったけど、手が小さく震えていた。


「雷……ダメなの、昔から……」

震える手を自分で握り締めている彼女を見たら、ふいに千鶴を思い出した。


あいつも昔っから雷嫌いだったよな。


「あの……」

「え?」

「もうちょっと、雨宿りさせてもらってもいいですか?」

「え?」

彼女は意味がわからないという様子で首を傾けた。


「雷が遠ざかるまで、一緒にいてもいいですか?」

「…………」

俺がそう言うと、彼女は困ったような笑みを浮かべて頷いた。




だけど、問題はここからだった。


病人の彼女は寝かせたい。

だけど寝室に入るのは……。


困った俺は、そのままを彼女に伝えた。


すると彼女は笑いながら一言言った。

「信用してるわ」、と。



──男としては、喜んでいいのかわからないセリフだった。

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