【短編】君を想う
翌日、いつも通り迎えに行くと、千鶴はなんだかスッキリした顔をして俺を出迎えた。
「よかったね」
そう言って頭を撫でてやると、
「何が?」
とトボケる千鶴。
椎名家に入ると、今日も智明はいなかった。
……おかしいな。
ちゃんと気持ちが通じ合ったなら、時間をずらす必要はもうないはずなのに。
「智明は? まだ朝練?」
「それが今日はまだ寝てるのよ」
と、困ったような美佳さんの声が返って来た。
ふーん。
「千鶴。起こしてきなよ」
多分また、意地悪い顔してたんだろうな、俺。
千鶴は眉を寄せて俺を見た。
だけど、美佳さんの声にも背中を押され、千鶴はしぶしぶ智明の部屋に向かった。
「美佳さん」
朝食の準備をしている美佳さんの背中に声を掛けた。
「なぁに?」
のんびりとした返事が返ってくる。
「もう、大丈夫だと思うよ」
「何が?」
振り返った美佳さんは、言葉とは裏腹に、何もかもわかったような顔で微笑んでいた。