【短編】君を想う
数日後、久しぶりに図書館に足を運んだ。
貸出カウンターに桜井さんの姿はなかった。
どこかで本の整理でもしてるのかと思って、書架の間をうろうろしていたら、
「和泉くん」
と後から声を掛けられた。
「こんにちは」
「あの、ありがとね」
「ん?」
「彼に連絡してみたの。そしたら……」
彼女はそこまで言うと、少し顔を赤くした。
「よかったですね」
きっといい方向に歯車が回り出したのだろう。
「俺……」
「ん?」
「ずっと好きな子がいたんです。でもその子は別の男が好きで、俺はそれを知ってて……」
なぜか俺は、彼女に向かって自分の気持ちを吐き出していた。
しかもこんな書架の間で、立ったままで。
「でも俺、男の方も親友っていうか……大切なやつで」
「うん」
彼女はそんな俺の話を真剣に聞いてくれた。
彼女に気持ちを吐き出して、俺は一体どうしたいんだろう。
「2人はうまくいきました」
「そう」
でも、一度しゃべり始めた口は止められなくて。
「……あの子以上に好きな人、出来るのかな……」
「出来るわよ」
独り言のように吐き出した俺の言葉に、彼女は何の迷いもなく断言した。
俺は思わず目を見開いてしまう。
「あなたのことだけを見てくれる人がきっといるわ」
彼女はそう言って、最上級の笑顔を向けた。
「……ありがとう」
「また叔父さんの店にコーヒー飲みに来て」
彼女はそう言うと、ワゴンを押して歩き出した。
「はい」
千鶴と智明は、たまたま近くにお互いがいた。
桜井さんは多少遠回りしてそれを手に入れた。
だから、俺もきっと。
いつか必ず、出会えるはず──……。
end