粉雪2-sleeping beauty-
「…別に、何もされてねぇなら良いんじゃねぇの?」


煙草を咥え、ソファーに座り直した。



『…気持ち悪くない?』


「役得だよ、役得!(笑)」


ケラケラと笑う俺に、千里はまた深いため息をついた。



「…何でそんな憂鬱な顔するんだよ?
タダでプレゼント貰えるんだぞ?
その辺のキャバクラ女なら、尻尾振って喜ぶ話じゃねぇか。」


『…もぉ良いよ。
マツの馬鹿!』


俺の言葉に、千里は不貞腐れたように頬を膨らませた。



「…わかったよ。
行ってやるから。」


『来なくて良い!!』



何でそんなに、怒る必要があるんだろう?


俺はこの時、事の重大さなんて全く考えていなかった。


この事件は、俺達の関係を少しずつ変えていくんだ…。




『てゆーか、そろそろ行く時間でしょ?
早く行けばぁ?』


言葉尻からも、怒りが伝わってくる。



「…カレーどーすんだよ?」


『…あたし、一人で食べる。
置いとくから、マツも帰ってきて一人で食べなよ!』


やたらと“一人”を強調した千里は、キッチンで俺の方も向かずに煙草を咥えた。



本当に、やれやれってカンジだ。


これ以上怒らせたくなかった俺は、ため息をついて寝室に戻った。


真新しいシャツを羽織り、クローゼットに並べられた黒ばかりのスーツから、

一着を取り出す。


黄色のネクタイを首から掛けてリビングに戻ると、

相変わらず無視されたままの俺は、荷物と煙草と携帯を持って足早に家を出た。


俺の家なはずなのに、何故か追い出されたような気分になった。



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