粉雪2-sleeping beauty-
だけど俺だって別に、心配してないわけじゃない。


あんなんだけど、顔は良い。


あんなんだけど、話も上手い。


あんなんなのに、俺は本気で惚れてる。


“千里のため”ってゆーよりは、“自分のため”ってのが大きいけど。



「…俺もヤキが回ったねぇ。」


煙草を咥え、事務所の汚い天井を見つめた。



『…どーしたんすか?』


視界に、真鍋の顔が入ってきた。


男に顔を覗かれると、良い気分ではない。



「…お前、1000円やるから事務所の大掃除しろよ。」


『嫌っす。』


逃げるように、真鍋は俺の視界から消えた。



「…1500円は?」


『…お小遣いじゃないんだから。』


子馬鹿にしたように、真鍋は“ありえない”とでも言いたげに笑った。



『マジ濡れたー!!』


『ギャハハハハ!
お前、汚いって!!』


作業着の男共が、俺の後ろでゲラゲラと笑う。


どれだけ掃除しても事務所が汚いままなのは、こいつらが原因だからだ。


外は相変わらずの雨模様。


景色を見るだけで、無意識にため息をついてしまう。



本当の千里は、ただのすぐ泣く女なのに…。


本当の千里は、ただの我が儘女なのに…。


本当の千里は、死んだ男に縛られてる女なのに…。


何でアイツは、モテるんだろう?


何で俺は、アイツが好きなんだろう?


こんなくだらないことばかり考えてしまうこの季節は、やっぱり嫌いだ。



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