粉雪2-sleeping beauty-
2 years ago
―――2年前、俺とお前はこの港町にやってきた。


本当に何もない街だけど、静かに暮らすには丁度良い。



あの頃のお前は、“生きる”って決めたわりには、

食べ物を受け付けない体になっていた。


食っては吐きの繰り返し。


それでも俺は、食べさせ続けた。



俺の頭の中には、

お前に何を食べさせれば良いかを考えることで、イッパイになってたんだ。


とにかく、何が何でも生きて欲しかった。



気付いたら、お前のことばっかり考えてたよ。


もぉ一度、笑った顔が見たかった。


悲しそうに笑う顔なんかじゃなくて、心から笑う顔を。






『…マツ…、うどん食べたい…。』



夏になったある日だった。


お前が初めて、酒以外で食い物を欲しがったんだ。


飛び上って喜んで、美味い店を探し回った。


味なんて覚えてないけど、お前が少しだけ笑ってくれて、俺も嬉しかったんだ。




それから少しずつ、お前は元気になっていった。


働くことを決めた時は、宝くじが当たるよりも嬉しかったと思う。



たとえ水商売だろうと、俺達がやってたみたいな裏の稼業だろうと、

何でも良かったんだ。


生きるために働くと決めたのなら、何でも応援したかった。



余計に酒浸りの生活になることはわかってたけど、

それだけは大目に見てやったんだぞ?


だから俺は、お前の店の開店の為に奔走してやったんだ。



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