粉雪2-sleeping beauty-
『…あたしのことが好きなら、マツを取り上げないで…。』


「―――ッ!」


悲しそうに笑うその顔に、俺は何も言えなくなった。


その後ろで流れ続ける失恋ソングが、何故か胸を締め付けた。


息苦しくて、死んでしまいそうになる。



『…悪いけどあたし、あなたが死んでも何とも思わないの。
あなたが代わりに死んでくれたら良かったのに…。』



“隼人の代わりに”


そんな風にさえ聞こえた。



そんな残酷な言葉を当たり前のように言える千里は、やっぱり狂っているんだと思う。


狂わせたのは、隼人さんなんだろうか?


それとも、元々狂っていたのだろうか…?


ただ少しだけ、千里のことを“怖い”と思った…。




―カラン!

『警察です!
無事ですか?!』


瞬間、勢い良く入ってきた二人の警官を確認し、ゆっくりと谷口の上から降りた。


俺の代わりに、今度は警官が谷口を取り押さえる。



「…迷惑防止条例違反、ストーカー行為、営業妨害に傷害未遂。
あと、何がある?
…まぁ俺は、正当防衛だろ?」


少しだけ口角を上げて、千里に向き直った。


少し安心したのか千里も、諦めたようにため息をついた。



『…君、話を聞かせてもらうから。』


タメ口のオッサン警官が、千里の代わりに声を上げた。


応援要請を受けたのであろう私服の警官が、続々と店に入る。



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