粉雪2-sleeping beauty-
『…わかりましたよ…。
もぉ、何も言いませんから…。』


その言葉を聞き、ゆっくりと真鍋の首元から手を離した。



『…早く潰れてくださいよ…。』


眉を上げながら、真鍋はポツリと呟いた。


飲み干して空になったグラスを自分の横に置き、本日何杯目かのビールを注文する。



毎日毎日、酔い潰れては、家に帰る。


俺はまるでアル中だ。



『…見てらんないっすよ、そんな姿…。』



真鍋のそんな心配だって、まるで俺には届かない。



ただ、何も考えたくなかった。


何も、考えられなかった…。



“マツだって、彼氏ヅラしてんじゃん!”


耳を塞いでも、聞こえてくる。


目を瞑っても、あの日を鮮明に思い出す。



『…好きなんすね、ママのこと…。』


「―――ッ!」


『…好きじゃなきゃ、そこまで荒れたりしませんよ。』


ウーロン茶をチビチビと口に含みながら、真鍋はまたため息をついた。



「ハッ!もぉ、ガキのお守りなんてたくさんだよ…。」


そんな俺に、真鍋は“やれやれ”と呟いた。



相変わらずうるさくて小汚い居酒屋は、こんな醜い俺にはピッタリの場所で。


ゲラゲラと雑音の様な笑い声は、

俺の心の中のモヤモヤとしたものから逃げて耳を傾けるには最高で。


もぉ、何もかもが嫌だったんだ。


アイツの一挙手一投足、言葉の一つにさえ振り回されてるダサい自分。


格好悪くて、認めたくなかった。


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