粉雪2-sleeping beauty-
―――いつの間にか、ニュースで帰省ラッシュが騒がれるようになった。


“お盆”なんて時期は、嫌でも俺を憂鬱にさせる。




「…お久しぶりです、隼人さん…。」


墓は綺麗に掃除されており、不似合いなほどの色とりどりの花が飾られていた。


眼下には海が広がっており、潮風がこんなに上の方まで届く。


咥えた煙草の煙は風に流され、少し目を細めてその場にしゃがみ込んだ。



「…春には来れなかったけど、アイツは来たんでしょ?」


聞いたって、何も返ってこない。



「…アンタがアイツに、変なこと吹き込んだんすか?
アンタ昔から、性格悪かったっすもんね…。」


ハッと笑い、地面の砂に煙草を押し当てた。



「…アンタが居るから悪いんすよ…。」


瞬間、突風が吹いた。


舞い上がった砂埃に、辺りにいた人達からか細い悲鳴を漏らす。


まるで背中を突き飛ばされたような、そんな感覚さえ覚えた。



「…俺が…悪いのかよ…。」



隼人さんが悪いんじゃないのか…。


あいつらの世界に土足で踏み込んだ、俺の方が悪いってことか。


そんなことさえ言われている気がして、ため息をついて立ち上がった。


遮る物のない夏の日差しは眩しくて、自分の影を見ながらサングラスを掛けた。



「…忘れんなよ。
アンタはもぉ、死んでんだ。」


吐き捨てるように言い、背を向けて足を進めた。


額には汗が滲み、文字通り、

汗水垂らしてあの人の為に働いていた日々を思い起こさせた。


だけどそれは全て、過去のことだ。


そんな残像を振り払うように、俺は一段一段、階段を下りる。


< 164 / 372 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop