粉雪2-sleeping beauty-
「…水遊びでも付き合ってやるか。」


『マジ?!』


食事も終わり、相変わらず眩しい日差ざしに目を細めながらポツリと言った言葉に、

千里は目を見開いた。


そんな顔に口元を緩ますと、今度は飛び上ったように喜ぶ姿に、

思わずプッと噴出しそうになった。



海辺の街だけあって、海は近い。


車で15分ほど走れば、一面に青が広がる世界に出る。


なのに俺達は、最初に来た日以来、この場所に来ることもなかった。





『―――海だよ、マツ~!!』


さっそく水の中に入り、千里は体全体で海を感じていた。



“宝石箱をひっくり返したような”


夜景や星空を見るときに使うそのフレーズは、

使い古された上に場違いなのかもしれないが、

キラキラ光る水面と、千里の笑顔にピッタリの表現だと思った。


顔の前に手をかざし、目を細めながら千里を見つめた。



『マツもおいでよー!』


言いながら、水しぶきを掛けられる。



「―――おわっ!
馬鹿!濡れるだろーが!!」


少しだけ掛かった水は冷たくて、

ジリジリと焼けるような熱く火照った体を、少しだけ冷ませてくれた。


何故かワカメが飛んできて、格好良く身を翻す俺を見た千里は大爆笑で。



「もぉ~!
お前の所為で、煙草ダメになるじゃねぇか!」


『あははっ!
馬鹿だね、マツは!!』



あぁ、そうか…


俺が欲しかったのは、この笑顔だったんだ…。


この笑顔がなかったから、俺はずっとイラついてたのか…。



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