粉雪2-sleeping beauty-
『…どしたの?マツ…。』


見つめる俺に、千里は不思議そうに首をかしげた。



「…何でもねぇよ。
くらげに刺されても知らねぇぞ。」


サングラスを掛けなおし、咥えていた少し湿った煙草に火をつけた。


海風が、スカルプチャーの香りを運んでくる。


風になびく髪をかき上げた千里は、少しはにかんだように目を伏せた。



『つまんないの~。
マツは一緒に水遊びしてくれないんだね。』


少し残念そうに、くるぶしの辺りまで浸かっていた場所からこちらに足を進めてくる。


俺の横に置いていたサンダルを拾い上げ、俺の咥えていた煙草を取り上げた。


少し目を細めながら、勝手に奪った煙草の煙を吸い込んで吐き出す。


そんな一連の動作を見届け、ため息をついた。



「…勝手に吸うなよ。」


頬っぺたを膨らませた千里は、何も言わずに俺の口に煙草を戻した。


瞬間、冷えた指先が俺の唇に触れる。



『…メンソールってカンジ?』


そう言って、クスッと笑った。



溢れ出してしまいそうだった。


俺の欲望とか、お前への気持ちとか。



『…マツ…。
話がね、あるの…。』


一呼吸置き、千里は戸惑いがちに俺を見上げた。


長く伸びた髪が、俺の体を撫でる。


その髪の毛を梳くように、ゆっくりと手を伸ばした。


真っ直ぐに見上げられていた瞳は、不安そうに俺の手の動きに合わせて進む。


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