粉雪2-sleeping beauty-
「…泣いたりすんなよ、ウゼェから。」


『―――ッ!』


横目に見た千里の肩は、少しだけ震えていた。



「ホストの本カノにでもなったか?
そりゃーおめでたい話だな!」


吐き捨てるように言ってやった。



“千里”とか“嵐”とか…


そんな会話を聞きに来たんじゃない。


ホストがこんなスナックに居るなんて、

しかもナンバーワンが店を抜け出してまで来るなんて、

“ただの友達”じゃ説明がつかない。



“あたしと一緒で”


そう言った時の顔は、“友達”に向けられた顔じゃない。



「…未練たらしく死んだ男を想い続けてたのかと思ってたけど、ちゃっかり乗り換えてるんだな、お前も。」


『―――ッ!』


俯いた顔が、こちらに向くことはなかった。


震える息遣いだけが、狭い店を包む。



『…聞いて、マツ…。
相談…あるから…。』


唇を噛み締めた千里は、俺の目を見据えた。


その目から逃げるように一旦目を伏せ、そして再び千里に合わせた。



「…俺じゃなくて、あの男に聞いてもらいな。」


『―――ッ!』


それだけ言い、立ち上がった。



『待って、マツ!!』


「うっせぇ!
触んじゃねぇよ!」


触れられそうだった千里の手は、瞬間、行き場所をなくすように止まった。


そして俺は、再び言葉を発した。


大きく息を吸って、誰が聞いても聞こえるように。


ゆっくりと、ゆっくりと―――…



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