粉雪2-sleeping beauty-
“コッチだよ”と言いながら、嵐が足を進めたドアの前で、一度深呼吸をした。


そんな俺にお構いなしに、嵐は扉を引く。



―ガラガラ…

『チャース!』


平然と並べられていたベッドの一つを囲むように、真鍋とルミの姿がある。


体を起こしていた千里は、顔を上げた瞬間、目を見開いていた。



『…何で…嵐とマツ…?』


『…心配して飛んできたんだよ。』


まるで俺の言葉を代弁したみたいに、嵐は心配そうに千里の元に歩く。


少し離れた場所から足が動かないままの俺とは、大違いだ。



『オイ、マツ!
何突っ立ってんだよ?!』


「―――ッ!」



俺にこんな態度を取るなんて、隼人さん以来だった。


ため息をついても、無意識に足を進めてしまう。



「…久しぶりだな、千里…。」


『―――ッ!』


唇を噛み締めた千里は、目を逸らすように俯いた。


点滴を繋がれた白くか細い腕が、痛々しい。


いつの間にか、昔に戻ったみたいにやつれていた。


そんな姿に、胸が締め付けられる。



『…ルミ、飲み物買ってきてあげるね。』


『俺もついでに、煙草吸ってきます。』


誰に言っているのかわからないような言葉で、ルミと真鍋は部屋を出た。


残された俺と嵐と、そして千里の三人は、沈黙のまま言葉を探し続けた。



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