粉雪2-sleeping beauty-
『…ねぇ、マツ…。
何で来たの…?』


千里はゆっくりと、俺を見上げた。


大きな瞳は、少しだけ曇っているようにも見える。



「…お前が倒れたって聞いて…。
心臓が止まるかと思った…。」


『―――ッ!』


何かを押し殺したような顔を伏せた千里に、言葉を続けた。



「…ごめんな…。
何も…気付いてやれなかった…。」


『―――ッ!』


広い病室な筈なのに、この場所だけ切り取られたように空気が重い。


掛けられていた布団を握り締めた千里の手は、震えているようにも見える。



『…何で…あたしの心配なんかすんの…?』


振り絞ったような声に、胸が締め付けられる。



「…強がるなよ、もぉ…。
心配なんだよ、お前のことが…。
…お前が居なくなったら、生きていけねぇよ…。」


『―――ッ!』


数十センチの距離が、これほど遠いと感じたことはない。


ゆっくりと、ゆっくりと…


手を伸ばした。



―パシッ!…

「―――ッ!」


瞬間、渇いた音が響いた。


その瞬間、俺の手が振り払われたんだと認識した。


次の瞬間に襲ってきた手の痛みより、心の方が痛かったことだけは覚えている。


何が起こったのかなんて、全くわからなかった。


ただ綺麗なはずの千里の顔が歪んでいて、俺を睨み付ける顔に言葉を失った。


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