粉雪2-sleeping beauty-
“…マツは…死なない…?”


だから千里は、こんなことを聞いてきたのだろうか…?



俺が居る所為で…


千里は隼人さんを思い出すのか…?


…じゃあ俺は、どうすれば良いんだよ…。



『…マツ、彼女居るでしょ?
何で…ここに来たの…?』


「―――ッ!」



…何でそれを…!



「…誰が…そんなこと…」


口は渇ききり、上手く言葉が発せない。


喋り方さえ忘れてしまいそうなほど、千里の瞳に吸い込まれそうになる。



『…隼人と一緒だね…。』


悲しそうに笑いながら、千里は俺の頬に触れた。


細く長い指が、這うように撫でる。


生唾を飲み込みながら、視線を向けた。



『…隼人もね、人の所為にするんだよ…。
そんなの全部…わかるんだよ…。』


「―――ッ!」


何も映し出していないような瞳を、ただ“怖い”と思った。


俺の後ろに隼人さんの影を見るような瞳に、体が固まったまま動けない。



『…あたし、昔聞いたよね?
“他に女が居て、何が大切なの?!”って…。』


「―――ッ!」


千里の顔は、本当にただ無表情で。


自分が今、どんな顔をしているのかすらわからない。



『…隼人もね…。
あたしが居ないと、生きていけないって言ってたの…。
…でも、傍に居てあげたのに死んじゃった…。』


次第に、千里の声が震えだす。


比例するように締め付けられる俺の胸からは、

込み上げて来たものが溢れ出してしまいそうになる。




< 207 / 372 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop