粉雪2-sleeping beauty-
いつの間にか、カーテンの隙間からは朝日が漏れていて、

一日の始まりを教えてくれた。


だけど俺達の長かった一日は、まだ終わっていない。



「…お前、風呂入ってこいよ。」


『…うん。』


少し気まずそうに立ち上がり、千里は風呂場に足を進めた。



『…ありがとね、マツ…。』


そう言って振り返った笑顔は、俺の心を捉えた。


化粧は崩れていたはずなのに、何故か綺麗だと思った。



「…襲われねぇうちに、早く行けよ。」


『襲う気だったんだ?』


クスッと笑い、悲しそうに言葉を続けた。


『…ダメだよ、そんなことしたら。』


「―――ッ!」


そんなたった一言に、妙な胸騒ぎがした。


何故か分からないけど、千里は笑ってるはずなのに不安になる。



「…お前…、戻ってくるよな…?」


『ハァ?何言ってんの?
意味わかんない…。』


俺の言葉をため息で返し、千里は風呂場のドアを閉めた。


バタンと閉まった瞬間、安心したように崩れ落ちた。



壊れていないか、ただ心配だった。


本当は、隼人さんが死んだ時に壊れていたのに…。


嘘で塗り固められている所為で、何も気付けなかった。


気付かせようともしなかったんだ…。



幸福で暖かなお前が与えてくれたあの時間だけが、今も俺の中で輝いてる。


あの日見た星空と約束だけを胸に―――…


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