粉雪2-sleeping beauty-
『…眠い…。』


風呂から上がった千里は、パジャマに身を包みながら目を擦った。


髪の毛からはスカルプチャーの香りが消え、

代わりに俺と同じシャンプーの香りが香る。



「寝ろよ。」


『…うん。』


そう言って、まるで自分のベッドのように倒れこんだ。


そんな千里に布団を掛けてやる俺は、やっぱり甘いのだと思う。



『…ねぇ、マツ…。
あの話の続き、聞かせて…?』


寝返って体をこちらに向けた千里は、トロンとした目で見上げてきた。



「…どの話?」


『広島弁の友達の話。
卒業式に、単車で行った辺りまでは覚えてる…。』


仕方なく床に腰を下ろし、思い出すように遠くを見つめた。


こんな光景は、河本が来た日以来だ。


本当に、時間が経ったと感じさせられる。



「…まぁ何とか、無事に卒業したんだよ、俺ら。
で、機械部品作る会社に就職したんだけど、1ヶ月と持たなくて。」


『…また喧嘩?』


困ったように笑う千里を横目に、ベッドに肘をついて少しだけ笑った。


ただ見つめ合ってるだけで、こんなにも心が穏やかになって、

それと同時に俺の胸を締め付ける。


どこへも行かないで欲しかった。



『…マツ…?』


「あっ、あぁ…。
…ごめん…。」


不思議そうな顔を向けられ、ハッとした。



“…もぉ、ずっと前からだよ…。
マツは、隼人と同じ目をしてる…”


ただ、この言葉が怖かった。


俺は今、どんな風に見つめていたんだろう。


自信がなくて…。


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