粉雪2-sleeping beauty-
『指名だ、指名!散れ!』


出迎えたホスト達をそんな言葉で一蹴し、嵐は俺を一番奥に通した。


ドカッと腰を下ろした俺と同じように、嵐もドカッと腰を下ろす。


少しして運ばれてきたおしぼりを受け取り、嵐は酒を作って差し出した。



「…勝手に指名にしやがって…。」


『酒は奢ってやるよ。
指名料だけ払え!』



…何だ、それ…。


呆れ半分になりながら、嵐の優しさに少しだけ恥ずかしくなった。


一番安い酒に少しだけ笑い、一気に流し込んだ。


近いはずの一気コールも、クラブ系の音楽も、ただ薄ボンヤリとしか聞こえない。



「…千里にさぁ…。
“あの部屋から出ろ”っつったんだよ…。
けど、完璧拒否されたよ…。」


『…どーすんの?これから。』


嵐の問い掛けにフッと笑い、口を開いた。



「…アイツと同じこと聞くなよ…。
俺だってそんなの、わかるわけねぇだろ…。」


一度目を伏せ、手元の酒を見つめた。


「…ただアイツは、一生思い出の中だけで生きるって決めたんだよ…。
だから、俺との未来はありえねぇの。」


『…千里が…そー言ったのか…?』


嵐は、戸惑いがちに聞いてきた。


その言葉に首を横に振りながら、言葉を続ける。



「…アイツが、そんなこと言う訳ねぇだろ…。
最後まで、俺を傷つけないようにしてたよ…。」


『…“最後”ねぇ…。』


ポツリと呟く嵐を見つめ、再び酒を口に運んだ。



『…なぁ、マツ…。
トッポとポッキーの違いって、何だろうな…。』


「…俺に聞くなよ…。」


不思議そうに聞いてくる嵐に、諦め半分で言葉を返した。



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