粉雪2-sleeping beauty-
『…そんなに良い男なのか?
死んでまで思い続けるほど、“隼人”はすげぇのか…?』


「…知るかよ…。」


唇を噛み締め、言葉を続けた。


「…あの人がどんな男であろうと、千里があの人以外いらないんなら、外野が何も言えねぇんだよ。」


『…お前、外野じゃねぇだろ?』


眉をしかめる嵐に、力なく笑って煙草を取り出した。



「…あの二人の世界には、あの二人しか住んでねぇんだよ。
あとは全部、“外野”ってことだよ…。」


俺の言葉に、嵐は相変わらず“意味不明だな”と呟きながら、煙草を咥えた。


冷え切っていたはずの体は、いつの間にか店の熱気によって温められていた。


なのに俺の心は、まるで真冬で。


ポッカリと空いてしまった隙間を、

どうやって埋めれば良いのかすらわからないままだ。



『…でもお前、アイツが居ないと生きていけないんだろ?』


「…聞こえてたのかよ…。」


自分の言った言葉を思い出し、苦虫を噛み潰した。



「…俺はずっと、アイツの幸せだけを願い続けてきたんだよ…。
“自分のものにしよう”なんて、初めは思ってなかったんだ…。」


吸い込んで吐き出した煙を、ただ見つめた。


「…だけど、ずっと一緒に居たら、馬鹿みたいに期待する気持ちも出てきてさ。
すっげぇダセェよ…。」


俺の言葉に、だけど嵐は、何も言わなかった。


言葉の代わりに差し出された新しい酒を、抑えられなくなった感情と一緒に流し込む。



「…世話になったな、嵐…。
これからは、お前がアイツを支えてやれよ…。」


『―――ッ!』


目を見開いたその顔は、全然“華麗”ではなかった。


そんなことで、他人事の様に笑いが込み上げてきた。



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