粉雪2-sleeping beauty-
『―――社長!
久々に、飲みに行きましょうよ!』


「いってらっしゃい。」


声を上げた真鍋を見ることもなく、スポーツ新聞に目を落とした。


大体俺は、芸能欄しか見ない。



『…やっぱ社長、最近おかしいっすよね。』


そんな俺にため息をつき、真鍋は向かいに腰を下ろして煙草を咥えた。



「どこら辺が~?」


咥えていた煙草の煙に少し目を細め、仕方なく真鍋に視線を合わせた。



『…最近あんま、キレなくなりましたよね。
つーか、覇気がないっす。』


「…寒いんだよ。」


眉をひそめ、新聞の次のページをめくる。



『…でも去年は、そんなんじゃなかったっす。』


「…なぁ、真鍋…。
お前、しつこい。」


勢い良く煙を吐き出し、煙草を灰皿に押し当てた。


そんな俺に、少し不機嫌そうに眉をひそめ、何かを考えている様子の真鍋。



『…ママ、元気っすか?』


「…元気なんじゃねぇの?
倒れたら、電話掛かってくるだろ。」


他人事の様に言い、見終わった新聞を放り投げた。


それがパサッと音を立て、机に落ちた。


そんな一通りの動作を見終わり、真鍋はゆっくりと口を開いた。



『…何でそんな言い方なんすか?
何か…あったんでしょ…?』


「…何もねぇよ。」



俺達はずっと、最初から最後まで、何もなかった。


ただ、それだけのことだ。


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