粉雪2-sleeping beauty-
時が止まったように静止したまま動けない俺を無視したように、

佐和がツカツカとヒールの音を響かせながら、俺達の間に割って入った。


その瞬間、バチンと渇いた音が響き、千里は目を見開いたまま固まっていた。



…千里が…殴られた…?


この…女に…?


その瞬間、佐和の肩を鷲掴み、抑えきれない拳を振り上げた。



『やめて、マツ!!』


「―――ッ!」


制止する様に響いた千里の声に、瞬間、目を見開いた。


唇を噛み締め、掴んでいた佐和の肩を突き飛ばすように離した。



『アンタ、何なのよ?!
幸成に何したのよ?!
アンタの所為で、幸成が事故にあったんじゃないの?!
アンタが居るから悪いんだよ!!』


佐和は俺をキツク睨み、再び千里の元に歩み寄って声を荒げた。



『…ごめん…なさい…。
あたしとマツは…何でもないよ…。』


そして顔を上げ、千里の瞳は佐和を捕らえた。


『…あなたがマツを、大切にしてあげて…?』


「―――ッ!」


千里の言葉の意味が、全くわからなかった。


ただ頭は真っ白で、打ちつける心臓の音だけが早く、そして大きくなっていく。



「…千里…?」


恐る恐る名前を呼ぶ俺に、千里は笑い掛けた。


いつもの綺麗な顔で。


そしてゆっくりと、声を掛ける。



『…バイバイ、マツ…。』


「―――ッ!」



笑顔を残し、背を向けた瞬間、千里は今度こそ、俺を突き放した。


本当にお前は、約束通り自分から去る道を選んだんだ。


だけど俺はもぉ、絶対離さない。


そう誓ったから―――…



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