粉雪2-sleeping beauty-
『―――社長!!
スンマセンした!!』


夕方、事務所に行くと、真鍋が頭を下げた。



「…何が?」


『…磯村から聞いて…。
あの女、社長のトコ行ったそうじゃないっすか…。』


顔だけ上げた真鍋は、悔しそうに目を伏せた。



「…もぉ良いんだよ、真鍋…。」


『…千里ママとは…?
どうなったんすか…?』


その言葉に、ただ悔しくて、唇を噛み締めた。



「…ずっと前に、俺達は終わってたんだ…。
本当は…会うべきじゃなかったんだ…。」


『―――ッ!』


目を見開き、言葉を探すように、真鍋の唇が動く。


だけど俺は、それを遮った。


「…俺の…所為だから…。」


『―――ッ!』



女一人失っただけなのに…


手に入れてさえいない女だったのに…


何でこんなに苦しいんだろう。


何でこんなに、俺の胸を締め付けるんだろう…。



『…愛し合ってると…思ってました…。』


「―――ッ!」



頼むから、それ以上何も言わないで欲しかった。


ただそれだけのことを、願い続けてたのに…。



「…アイツは俺を…選ばなかったんだ…。」



アイツはただ、首を振り続けていた…。


怯えたように、俺を見てたんだ…。


本当はその時、手を離してやれば良かったんだ…。


俺から手を離してやれば、

少しでも千里は罪悪感を持たずにすんだかもしれないのに…。

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