粉雪2-sleeping beauty-
「…嘘…だよなぁ…?」



倒れている千里の右手には、ピンク色の剃刀が握られていた。


左の手首からは、風呂場一面を支配する色が流れ出していた。



「…なぁ、千里…?
俺だよ…、起きろよ…。」



ゆっくりと抱きかかえた千里はまだ温かくて。


なのに俺は、体が震えて力が入らなくて…。


軽いと思っていた筈なのに…。


俺の真っ白なシャツには、次第に千里の色が広がっていった。


勝手に染めるその色は、まるで千里みたいで。




それから俺は、どうしたのか覚えていない。


ただ病院で、千里の手首にはタオルが巻かれていたと言っていたから、多分、

俺がやったんだと思う。


救急車を呼んだ記憶すらなくて。


ただ、千里の名前だけを呼び続けた。




俺達は、こんな形で永遠に別れてしまうのか…?



“バイバイ、マツ”


あれが最期の挨拶になるなんて、悲しすぎる。


愛してるから、離れたのに…。


昨日会いに行ってれば、何か変わったのかな…。


ちゃんと謝って、ちゃんと弁解して…。


苦しめたくないから、お前から離れたのに…。


こんなことになるなら、意地でも傍に居れば良かった。


“死ぬなよ”って、約束すれば良かった…。



ごめんな、千里…


…本当に、ごめん…


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