粉雪2-sleeping beauty-
『―――マツ!!』


「―――ッ!」


引き裂くような声に、ハッとした。


顔を上げると、純白のスーツがこちらに向かってくる。


パタパタと3人分の足音は、静寂に包まれた病院に響いた。



『マツ!!
しっかりしろ!!』


『ママは?!
どーなったの?!』


『社長!!』


嵐とルミと真鍋は、口々に捲くし立てた。


体を揺らされると、まるで俺を形作っているものが壊れてしまいそうで。



何で居るのかとか、何がどうなっているのかとか、まるで分からなかった。


ただ血で染められたスーツだけが、

先ほどのことが嘘ではないと証明しているみたいで。



「…千里が死んだら…俺の所為だ…。」


『っざけんじゃねぇぞ、てめぇ!!
縁起でもねぇこと言ってんじゃねぇよ!!』


搾り出す俺の胸ぐらを掴み、嵐は声を上げた。


ただ胸が締め付けられて、息さえも出来なくて。



『千里はなぁ!
そんな女じゃねぇよ!!』


俺の胸ぐらを掴む嵐の手は、震えているようにも見えた。


嵐は一度唇を噛み締め、顔を上げて再び口を開いた。


『俺らが呼べば、戻って来るんだよ!!
優しいやつだって…わかってんだろ?!』


「―――ッ!」


嵐の怒声にも、ルミの嗚咽にも、真鍋の押し殺したような顔さえも、ただ苦しかった。



俺のためじゃなくても、戻ってきて欲しい…。


こんなにお前を想ってくれる仲間が居るのに…。


お前はもぉ、一人じゃないのに…。




< 280 / 372 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop