粉雪2-sleeping beauty-
―――医者はゆっくりと、処置室から出てきた。


海の色みたいな蒼い服は、所々血に染まっていた。


俯いたその表情からは、何も読み取れなくて、

ただ打ち付ける心臓の音だけが早くなる。



『先生!
千里は?!どーなったんですか?!
生きてるんでしょ?!』


嵐が、縋りつくように捲くし立てた。


俺達は息を呑んだまま、言葉を発することさえ出来ない。



『…一命は取り留めました。
今は、麻酔で眠ってます…。』


「―――ッ!」



…生きてる…ってことだよな…?



『…幸い、手首に巻かれたタオルのおかげで出血は少なくて済みましたし、あと少し救急車を呼ぶのが遅ければ―――』


「そんなことだーだって良いんだよ!!
千里は…生きてるんだろ?!」


言葉を遮り聞いた俺に、医者は少しのため息をついた。


そしてゆっくりと口角を挙げ、微笑んで言葉を続けた。



『…生きてますよ…。
ちゃんと…生きてます。』


「―――ッ!」


その言葉に、ただ力が抜けたように足元から崩れ落ちた。



生きていて欲しいとだけ、祈り続けた。


戻ってきてくれることだけ、願い続けた。



あの人は…連れて行かなかったのか…?


それとも、千里の意思で戻ってきたのか…?




なぁ、千里…


あの時お前は、何を考え、何をしていたんだ…?


今はもぉ、何も聞くことが出来ない…。


だけどこの時は、ただ安心したんだ…。



戻ってきてくれて…


俺に温もりをくれて、ありがとう…。





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