粉雪2-sleeping beauty-
『…ママは生きてるのに…。
そんなこと言わないでよ…。』


ルミの吐き出すように絞り出した声は、

まるで俺達の言葉を代弁しているみたいだった。


顔を覆ったままの千里は、ゆっくりと震える声で言葉を紡ぎだした。



『…好きで生きてきたんじゃない…。
生きたくて…生きてきたんじゃないよ…。』


「―――ッ!」



“じゃあ、何のために―――…”


出かかった言葉を飲み込んだ。


聞いてしまえば、千里の生きる意味がなくなってしまいそうで。


そしたら千里は、本当に死んでしまいそうで。


それが怖かった。



『…これ以上…あたしから何も取り上げないで…。
死ぬことすらも取り上げられたら…どうすれば良いの…?』


唇を噛み締めて俯いていた嵐は、覚悟を決めたように千里の元に歩み寄った。


そして少しだけ悲しそうな顔で、口を開く。



『…俺達のために生きてくれよ…。
マツと一緒に…生きろよ…!』


『―――ッ!』


だけど千里は、何も言わなかった。


返事なのかどうかも分からない嗚咽は、相変わらず部屋中を支配していて。



愛してて…


だけど、離れることが一番良いと思ってて…


なのに千里は、こんなことばかりを繰り返す。


もぉ、俺にだってどうすれば良いのかなんてわからなかった。


手を伸ばすことも、声を掛けることも出来ない。



苦しくて、苦しくて…


堪らなく胸を締めつける。


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